築50年の社屋に“発信力”をプラス。建物で語るセルフペイントの愉しみ

秋田県湯沢市に本社のある塗装店「株式会社ささき」秋田支店の事務所リノベーションのプロジェクトです。

築50年の社屋に、事務所としての機能に加えて、DIY塗料や輸入壁紙を販売するショップとセルフペインティングのワークショップ会場を併設する計画。

「チェントコローレ(cento colore)」はイタリア語で「100の色」という意味。好みの色の塗料を必要な分だけ調色したり、お気に入りの輸入壁紙を1メートルから購入できたりとセルフペインティングを身近に感じられる提案型のショールームになっています。

ファサードは6メートルの大開口。
フルオーダーのスチールサッシが店内に自然光を導きます。微妙な色の違いを見分けて自分好みの色を見つけるスペースゆえに、自然光の明るさは重要な要素の一つです。

店内入り口すぐに置いたのは公式サイズの卓球台にオリジナルの猫足をつけた展示台。

株式会社ささき秋田支店 佐々木寛人さん

天井は現しに。鉄骨部のペイントや天井の壁紙、壁面・床面のモールテックスなど、事務所全体に実際に販売している商材を使っています。

「サンプルも多種ご用意していますが、実際の空間に使うとどう見えるのか、そのイメージは実際に施工した空間を見ていただくのがベストかなと思い、ショールーム機能を持たせる意味でも建物全体にさまざまな塗料や壁紙を使用しています」 とクライアントである佐々木寛人さん。

事務所内の木製棚の扉は一枚一枚異なるカラーでペイント。

「事務所は1920〜1930年代のヨーロッパのアートにインスピレーションを得ています。棚の扉のカラーリングはパウル・クレーの絵を参考にしました」と佐々木さん。
カラフルななかにドライなユーモアを感じるカラーリングです。

ペイントのいいところは自分の手で空間を好きに彩ることができる点にあると佐々木さんは言います。 「やってみて気に入らなかったり、飽きたりした場合はまた塗っちゃえばいいんですよ。自分でもできるなら色や柄でもっと住まいは冒険できる。店舗や事務所もブランディングにつながるはずです」。

ショップでは幅広いセルフペインティングの相談が可能。

量り売りや小分けの販売もあるので、一脚の椅子を好きな色に塗ったり、市販のカラーボックスに好みの壁紙を貼って自分だけのオリジナル収納をつくったりと、暮らしに彩りを添えるさまざまなアイデアが実現できそうです。

使う人の暮らしに深く関わるための塗装ワークショップ

塗料にはモルタル、漆喰などの壁材をコテ等で塗り上げる左官も含まれます。
左官の材料や道具が揃うほか、パーツ、つまみ、取っ手やタイルもたくさん。

チェントコローレではDIY初心者も安心して取り組めるよう、壁紙の貼り方やセルフペイントのワークショップも開催しています。

「塗料って、半製品なんですよ」と佐々木さん。

塗装店は塗料を売るだけで終わりではなく、塗る技術を伝えたり、必要に応じて職人の手を借りたりすることで初めて使う人の暮らしに関わることができる、という意味です。

「一回習えばこんなに簡単なんだ、と実感してもらえるはずです。自分でやったり、子どもたちとやったりして仕上げると楽しいし、ムラや刷毛目が残ったとしても愛着が湧きますよね」。

まちの記憶を引き継ぎつつ新しい色で彩る

「実は古い社屋だった頃は、事務所の建物に愛着を持ちにくかったんです」と佐々木さん。

「DIYやセルフペインティングの文化が育った欧米では古い建物のほうが価値が高いとされて、古いものを大切にする文化があります。塗装業としてそうした文化を発信していきたいと考えるようになりました。そのためには自分自身や社員がもっと社屋に愛着を持てるようになる必要がある。それで事務所のリノベーションをしようと思ったんです」

「見せたい商材がたくさんあったので、リノベーション時に建物自体は引き算でクールに仕上げていただいたんです。以前の客層はDIY好きの女性が多かったんですが、年齢層も幅が広がり、性別も関係なく多くの客層にいらしていただいています」と佐々木さんは言います。

「リノベーションをして会社のスタッフも喜んでいます。『働きやすくなったし、職場に来るのが楽しい』と。
用途や役割が変わっても、古い建物の記憶を引き継ぎながら自分の手で空間を変えることができる。それがリノベーションの良さですよね。そのときにペイントができる役割はけっこうある。それを“建物で語れる”ようにしてくださったのが、リリーアーキテクツの高橋理徳子さんのお仕事でした」。

チェントコローレは、東北でセルフペイントやDIYのあるライフスタイルを発信するパイオニアです。
多くの人にぜひショールームを訪れていただき、住まいづくりや店舗づくりに生かしていただければと思います。


自分の手でまちはどんなふうにも彩れる。そう考えると、なんだか楽しくなってきませんか?


施工
奥羽住宅産業(株)
(株)工藤木工所
進藤電気設計
ミナトファニチャー
(有)川村鉄工所

設計監理
リリーアーキテクツ株式会社

DATA
所在地:〒011-0906 秋田県秋田市寺内後城21-31
tel:018-846-6161
ショールーム営業時間:月〜金 10:00〜17:00
website: https://www.cento-colore.com
instagram: @cento.colore / @paintstand_akita(ワークショップの様子や製品紹介、施工の様子などを掲載)


ライター:石倉 葵(株式会社See Visions)
撮影:オジモンカメラ

Photo Gallery

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